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神戸地方裁判所 昭和24年(ワ)1号 判決

本訴訴訟費用は原告(反訴被告)の、反訴訴訟費用は被告(反訴原告)の、各負担とする。

二、事  実

原告(反訴被告、以下單に原告と簡單に言うことにする)訴訟代理人の述べた、本訴請求の趣旨と、その原因、および被告のこれに対する答弁に対する答弁ならびに被告の反訴に対する答弁は、次の通りである。

一、本訴請求の趣旨

被告(反訴原告、以下單に被告と簡單に言うことにする)は原告に対して、神戸市生田区内に於て写眞撮影に関する営業のため、「三宮写眞室」ならびに「阪急三宮写眞室」なる商号を使用してはならない。との判決を求める。

二、本訴請求の原因、ならびに被告の答弁に対する答弁

原告は從前より写眞撮影業を営んでいるが、昭和二十二年十二月十二日神戸地方法務局に於て、商号「三宮写眞室」、営業種類写眞撮影およびその新品材料賣買、営業所神戸市生田区下山手通一丁目五番地、使用者原告、とする商号登記をして商号專用権を取得し、その後営業所分室を神戸市生田区三宮町一丁目五十二番地に開設した。被告は從來神戸市生田区三宮町一丁目十五番地で「青木写眞館」の商号で写眞撮影業を営んでいたが、昭和二十二年十二月中旬頃から原告の前記商号登記のある生田区内の神戸阪急会館西館二階で原告が專用権を有する「三宮写眞室」または右と類似の「阪急三宮写眞室」なる商号で原告と同一営業を営み原告の商号專用権を侵害するに至つたのである。

そこで原告は被告に対し昭和二十二年十二月十七日到達の書面で原告と同一の商号使用禁止の警告を発したが、依然被告はその非を改めず現在迄引続き原告の專用権のある原告と同一の商号または前記類似の商号を使用しているから、その使用禁止を求めるため本訴を提起した。

なる程、被告主張のように、訴外高野定惠が罹災するまで「三宮写眞室」の商号で原告主張の場所に於て写眞撮影業を営んでいたこと、および原告が同訴外人よりその営業ならびに商号を讓受ける契約をしたことは、認めるけれども、右訴外高野定惠の使用商号は未登記であつて、同訴外人は店舗と住宅とが昭和二十年六月五日戰災により燒失してから右店舗を復旧する資力もなく、また他所に於て從前使用の商号を以つて写眞撮影業を営んでいなかつたのであるから自然廃業したものであつて、それにともない商号使用権も当然消滅したものである。從つてたとえ被告が右訴外人より商号讓受契約を結んだとしても、讓受の効力を生ずる筈なく被告の使用する商号は右訴外人の使用商号とは別個のものである。またたとえ訴外高野定惠の営業が自然廃業でないとしても、被告が前記日時右訴外人より営業と共に商号を讓受けて、店舗の復旧工事が完成したのは昭和二十二年十二月十五日であるから、その間二年以上も正当の事由なく右訴外人の有した商号は使用されなかつたものであつて、登記のある商号に於てさえ、かゝる場合は商法第三十條によつて商号を廃止したものとみなされるのであるから、未登記の右訴外高野定惠の商号は当然廃止されたものとみなされる。從つていずれにしても被告使用の商号は從前訴外高野定惠の使用していた商号との同一性がなく、被告に於て初めて使用し始めたものであるから、原告の商号專用権を侵すものである。尚被告主張の訴外三木誠を当初技術員として使用していたことは認めるが現在は同訴外人を使用していない。

三、反訴に対する答弁

(一)被告の反訴請求を棄却する、との判決を求める。

(二)その理由は、本訴に関して述べたところと、同一であつて、要するに被告使用の「三宮写眞室」なる商号は訴外高野定惠が從前使用していたものとは別個のものであり、且未登記であるから、原告の商号專用権に対抗しえない。從つて被告からその商号の使用を差止められたり、登記の抹消を求められたりする筋合でなく被告の反訴請求は失当である。

被告訴訟代理人の述べた本訴に対する答弁、ならびに反訴の請求の趣旨と、その原因と、は次の通りである。

一、本訴に対する答弁

(一)原告の本訴請求を棄却する、本訴訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求める。

(二)原告主張の請求原因事実の中原告がその主張の場所で写眞撮影業を営みその主張の日時その主張の商号登記をし、その後その営業所の分室を原告主張の場所に開設したこと、被告が写眞撮影業を営み「三宮写眞室」なる商号を使用したこと、および、原告よりその主張の書面が被告に送達されたこと、は認めるが、その余は否認する。原告はその主張の商号につき商号專用権を取得したものでない。從つて被告より原告主張のような商号使用差止を求められるいわれはないから原告の本訴請求は失当である。その理由は次の通りである。そもそも神戸市生田区内で「三宮写眞室」なる商号を使用し始めたのは西宮市豊樂町一番地に居住の訴外高野定惠であり、同訴外人は米国で写眞撮影術を修めて帰国し、東京市で開業していたが、昭和十三年七月頃來神し神戸市生田区北長狹通一丁目七番地なる阪急会館西館二階西端の鉄筋コンクリート建屋舎約二十五坪を営業所として地名にちなみ「三宮写眞室」の商号を以つて写眞撮影業を開始したところ、技術設備の優秀、地の利等に惠まれ日増しに繁盛して、「三宮写眞室」の商号は京都市、大阪市その他遠隔の地に迄知れ渡るに至つた。ところが昭和二十年六月五日戰災によつて右営業所内の設備造作等を燒失したので右訴外人は止むなく復旧できるまで休業することにし、その間家計ならびに営業の整理等をなす傍ら店舗の復旧を種々劃策した結果、昭和二十二年五月に至り店舗復旧の第一着手として被告と協議の上、先づ被告が自費で右店舗を復旧することを約し、被告は屋舎の所有者と被告がその再築する契約を結び、訴外竹中工務店に請負代金四十万円を以つてその工事を請負わし店舗復旧工事を進めて行つたのである。しかるに訴外高野定惠は老齢のため健康が將來被告と共同して営業を続けることを許さないことを覚り、むしろ被告に從來の営業を商号と共に讓渡し、店舗の復旧と同時に被告をして休業せる営業を開始させようと考え、昭和二十二年九月二十七日右訴外人は被告に営業を商号と共に金十万円で讓渡した。かくして被告は訴外人の有した阪急会館西館二階西端二十五坪の屋舎を使用し「三宮写眞室」の商号で写眞撮影業を継承して営業する権利を取得したわけである。その後昭和二十二年十二月十五日右復旧工事が完成したので被告は同月二十日開店し現在に到つている次第である。しかも被告はその約一ケ月前頃より開店準備をし店頭に復興開店の廣告をしたのであつた。ところが從來写眞材料業に関係があつたが写眞撮影業をしていなかつた原告が昭和二十二年九月頃被告の讓受けた阪急会館西館の「三宮写眞室」と誤認させて顧客を集めて不正の利益を得ようとし、近くの神戸市生田区下山手通一丁目五番地に店舗を設け、かつて被告の「三宮写眞室」に雇われていた技術員訴外三木誠を使用して「三宮写眞室」なる被告と同一商号を以つて同一営業を開始し、被告の商号が未登記なるを奇貨としてその商号を登記してしまつたのである。

以上の通りであるから、被告の商号は原告の登記前より使用していたものであつて不正競爭の目的で使用しているものでなく、原告がたまたま同一商号を登記したからと言つても、被告にその商号使用権があるから、原告よりその使用禁止を求められる筋合いでない。殊に原告こそ却つて不正競爭の目的で、被告が訴外高野定惠より商号の讓渡を受けたことを知りながら、且元高野定惠に雇われていた訴外三木誠を技術員として使用して営業を始めその登記をしたのであるから、之を以つて被告には対抗できないものである。

尚原告は戰災によつて訴外高野定惠の営業は廃止されたものと言うけれども、かゝる見解は皮相の見解であつてとるに足らない。

二、反訴請求の趣旨と、その原因

(一)原告は神戸市生田区内に於て写眞撮影に関する営業のため、「三宮写眞室」なる商号を使用してはならない。原告は被告に対し、原告が昭和二十二年十二月十二日神戸地方法務局に於てなした「三宮写眞室」なる商号の登記の抹消登記手続をせよ。反訴訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

(二)その請求の原因は、本訴の答弁で述べた通りであつて、要するに訴外高野定惠が昭和十三年以來神戸市生田区北長狹通一丁目七番地なる阪急会館西館二階西端の約二十五坪の営業所に於て写眞撮影業の商号として使用し來つた「三宮写眞室」なる商号を被告が昭和二十二年九月二十七日右訴外人よりその営業と共に讓受け、右営業所の復旧工事をすゝめて復興再開準備中、從來写眞撮影業をしたことのない原告が世人をして昭和十三年來の老舗である被告の営業と誤認させて顧客を招き不当の利益を得ようと企て、被告の営業の再開直前急きよ被告の「三宮写眞室」なる商号を使用して神戸市生田区下山手通一丁目五番地に写眞撮影業を開始し、被告の商号が未登記なるを奇貨として昭和二十二年十二月十二日神戸地方法務局に於て右商号の登記をしてしまつた。しかして商法第二十一條不正競爭防止法等の規定の趣旨に徴するときは、未登記商号と言えどもその使用者は他よりその使用を防害されざる商号使用権を有するものであつて、不正の目的を以つて同一商号を使用する他人に対して、たとえ、他人の右商号が登記されたると否とを問わず、その使用の差止および損害賠償を求めうるものと解すべきであるから、被告の「三宮写眞室」なる商号は未登記とは言え、前述のような不正の目的を以つてする原告の使用を禁止し、從つてその登記の抹消を求めうる権能を有するものである。被告は原告の右のような同一商号の使用によつて営業上多大の損害を受け被告の商号使用権を妨害されているのであるから原告に対しその使用を禁じ且その登記の抹消登記手続を求める次第である。

<立証省略>

三、理  由

本訴ならびに、反訴について判断するのに、

(一)原告がその主張の神戸市生田区下山手通一丁目五番地に営業所を設け「三宮写眞室」なる商号で写眞撮影業を営み、同区三宮町一丁目五十二番地に右営業所の分室を開設していること、原告は右商号を昭和二十二年十二月十二日その主張のように登記したこと、右開業当初訴外三木誠を技術員として使用していたこと、被告が昭和二十二年十二月中(原告は中旬頃と主張し、被告は十二月二十日と主張する)から神戸市生田区北長狹通一丁目七番地の阪急会館西館に於て写眞撮影業を開始し、「三宮写眞室」の商号を使用していること、且右阪急会館西館に於ては訴外高野定惠が從前「三宮写眞室」の商号で写眞撮影業を営んでいたが昭和二十年六月五日右営業所が戰災を受け燒失して以來同訴外人は営業をしていなかつたこと、および被告が右訴外人より昭和二十二年九月二十七日同訴外人の從前の営業ならびに商号を讓受ける契約を結んだこと、右被告の商号は未登記であること、等はいずれも当事者間に爭がない。

(二)そこで問題は被告の現在使用している「三宮写眞室」なる商号が、原告の商号登記以前より使用されていた訴外高野定惠の商号と同一性のあるものであるか、若しくは被告独自のものであるかであるが、原告は訴外高野定惠は戰災によつてその営業所を失つて以來廃業したのであるから、これに伴い商号使用権も消滅した、そうでなくとも二年間以上も使用しなかつたのであるから商法第三十條の規定の趣旨によつて当然商号を廃止したものとみなされると主張するからこの点について考えるのに、訴外高野定惠が戰災による阪急会館西館の営業所燒失後同所に於ける写眞撮影業を廃業したと認める証拠はなく、むしろ証人石倉鷹二、同中島政市の各証言によると、右訴外人は戰災後阪急会館西館の営業所を復旧しようとして奔走し、その結果被告に営業ならびに商号を讓渡したことが認められるし、また「三宮写眞室」なる商号は昭和二十年六月五日戰災後二ケ年間以上使用されなかつたことはその商号による営業が前段(一)で認定したように二ケ年間以上行われなかつたことによつて明かであるが、それが通常の社会経済状態の下に於ける場合では成程原告主張のように商法第三十條の規定の趣旨よりして前段(一)認定の訴外高野定惠の未登記の右商号が当然廃止されたものと解釈することは正当であるけれども、本件のように異例の戰災敗戰その後に続く社会経済界の未曾有の混乱期に於ては、しかく簡單に商号を廃止したものとみなすべきでない。その理由はそもそも商法第三十條の趣旨は通常の社会経済状態に於ては営業を継続しながら二年間もその商号を使用しない商人は、この商号を継続して使用する意思のないのが通例であるし、営業を休止のため二年間も使用しない商人は一應営業を廃止し、從つて商号の使用も廃止したものとみるのが通例であつて、たとえ、いずれの場合にしろ二年後には再び使用する意思であつたにしても、かかる商人に対しては対世的な商号專用権を與えて、これを保護する必要がないのであつて第三者に対する優位な取扱と、その法律上特別な保護を受ける権利を與えられながら、その権利を二ケ年間も行使しない者は、その権利を享有するに値しないから、商号を廃止したものとしてその專用権を失わしめるべきであるとして設けられた規定である。このことは明文はないが未登記の商号と雖も尚商号使用権として商法第二十一條不正競爭防止法第一條の保護を受けるのであるから、その不使用の場合には登記ある場合の商法第三十條と同様に解すべきである。しかしながら本件のように我国の殆ど主要の都市が大量廣範囲にしかも短期間に戰災を受け店舗営業所の燒失おびただしく、且経済界の激変のため燒失店舗ないし営業所の復旧が資材あるいは、資金等の調達の関係で非常に困難な場合(このことは公知の事実である)は右二ケ年間と言う期間は短か過ぎその期間内に権利を行使しようとしてもこれが容易にできない場合であるから商法第三十條ないしその立法趣旨をそのまゝ本件に適用することはできないものと解するからである。しかも本件に於ては前段認定のように訴外高野定惠は営業所を復旧しようとしていたのであつて、被告に営業ならびに商号を讓渡する契約を結んだのは、前段(一)で認定したように戰災後二年四ケ月以内であるから、右讓渡契約当時は尚同訴外人の営業ならびに「三宮写眞室」なる商号は廃止消滅していなかつたものと解すべきである。そうすると、被告の使用する「三宮写眞室」なる商号は未登記とは言え、原告が同一商号を登記する前より使用されていたものであるから、原告の登記した商号と同一の神戸市生田区内に於て使用されていても、商法第二十條によつて被告が之を不正の競爭の目的で使用するものとの推定は受けないものであり、且不正競爭の目的であるとの証拠もない。從つて被告の「三宮写眞室」なる商号の使用は被告の商号使用権として原告に対抗しうるものである。

(三)次に原告の主張する類似商号「阪急三宮写眞室」なる商号について考えるのに、成立に爭のない乙第五号証によると、被告は昭和二十二年十二月二十三日前認定の被告の営業所に於ける写眞撮影業に関するものとして右「阪急三宮写眞室」なる商号を登記し、之を使用しているものと認められ、この「阪急三宮写眞室」なる商号は原告の登記した「三宮写眞室」なる商号に商法第二十條に言う類似した商号と言うことができるが、「三宮写眞室」なる商号は前段認定のように被告に於ても商号使用権があるのであるから、被告が「阪急三宮写眞室」なる商号を使用するのは自己の有する商号の類似商号を使用することになるだけであつて原告に対し不正競爭の目的で使用するものとは認められないから原告の商号專用権を侵すものとは解することはできない。それは原告の有する商号專用権と被告の有する商号使用権とは、権利の本質については差異なく、唯商法第二十條による推定の保護を受けるか否かにのみ差異があるものと解するからである。從つて原告が被告に右類似商号の登記抹消を求めるのなら兎も角、使用禁止を求めるのは理由がない。

(四)しかして原告の有する「三宮写眞室」なる商号專用権と、被告の有する同一商号使用権との差異は前段(三)に記したように唯不正競爭者に対する推定の保護を受けるか否かに過ぎないものと解するから、果して原告に於て被告に対する不正の目的で使用し登記したものとすれば被告は原告に対してその登記の抹消ならびに使用禁止を求めることができるわけであるが、原告が前段(一)で認定したように元訴外高野定惠時代の「三宮写眞室」に雇われていた訴外三木誠を技術員として使用したこと、および被告の開店と原告の商号登記とが相前後したことのみでは原告に不正の目的があるとは認められないしその他に被告の全ての立証を以つても之を認めることができないから、被告の反訴請求は理由がない。

以上の理由によつて原告の本訴請求も、被告の反訴請求も、いずれも理由がないから棄却すべきである。

仍つて本訴および反訴に夫々民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 喜多勝)

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